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なぜホテルの改善はうまくいかないのか?改善を妨げる「5つの罠」

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ホテルや旅館の現場では、日々さまざまな改善が行われています。接客方法を変える。清掃工程を見直す。スタッフの動線を変える。シフトを見直す。新しいシステムを導入する。経費を見直す。

私も仕事柄、お取引先の現場でこうした改善に関わっています。その中で感じるのは、「何を改善するか」と併せて「改善を妨げるものはなにか」を伝えていくことの大切さです。

改善する意思がないわけではない。それでも改善が進まなかったり、方向を間違えたり、一度改善しても元に戻ったりする。そこには、人間が持っている心理的傾向や、組織の中でいつの間にか生まれた習慣(慣れや変化を嫌う傾向)が関係していることが多々あります。

今回のブログでは、その代表的なものとして「改善のイベント化」「現状維持バイアス」「パーキンソンの法則」「部分最適」「属人化」の5つの罠を、現場で使える問いかけとあわせて紹介します。


1.「改善のイベント化」― 大きなことをやりたくなる

改善について話し合っていると、

「新しいシステムを入れよう」
「大幅にオペレーションを変えよう」
「組織体制を変えよう」
「設備を入れ替えよう」

と、大きな改善に話が向かうことがあります。もちろん、本当に必要であれば大きく変えるべきです。
ただ、注意したいのは、大きなことを行うこと自体が目的になってしまうことです。大きな施策は分かりやすく、実行した側にも達成感があります。「改善した」「改革した」「新しいことを始めた」という実感も得やすいでしょう。

一方で、

・備品の置き場所を変える
・清掃の順番を少し変える
・お客様への説明を一言加える
・案内表示を分かりやすくする
・無駄な確認作業を一つやめる

こうした改善は地味です。しかし、ホテル・旅館の日常業務やお客様の体験を実際に支えているのは、このような小さなことの積み重ねです。大きな改善を行って満足するのではなく、「小さな改善行動を日常のルーティンにする」ほうが重要です。

私は、大きな改善を行うことで達成感を得て、その後の小さな改善が止まってしまう状態を「改善のイベント化」と呼んでいます。改善はイベントではありません。また、小さな改善を積み重ねられない人に、大きな改善はできません。私はお取引先でも、そう伝えています。


2.「現状維持バイアス」― 今までこうだったから変えない

改善をしようとすると、反対側ではこんな言葉もよく聞きます。

「ずっとこのやり方です」
「特に問題は起きていません」
「以前からこうしています」
「変えると逆に大変になります」

人には、現在の状態から変化することを避けようとする「現状維持バイアス」があります。現場経験者としてその気持ちはよくわかります。なんとなくうまく回っている状態なので、あえて変える必要はない、と。

ホテル・旅館は毎日営業しているため、すべてを止めて仕事の仕組みを作り直すことはできません。そのため、過去から続いている方法を、そのまま続けているところが多くあります。長く同じ仕事をしていると、「不便だけれど慣れている」ことが「これが普通」に変わっていきます。設備だけではなく、仕事の順番、備品の配置、帳票、接客方法、清掃方法、スタッフ間の連絡方法など、あらゆるところで起こります。

だから私は改善を行う際、「問題はありませんか?」だけではなく、「なぜ、このやり方をしているのですか?」と尋ねるようにしています。明確な理由があるのであれば、それで構いません。しかし、「昔からそうだから」しか理由がなければ、一度疑ってみる価値があります。


3.「パーキンソンの法則」― 今ある時間・人数・費用を必要量だと思い込む

「仕事は、与えられた時間を満たすまで膨張する」。これがパーキンソンの法則として知られる考え方です。実際の現場では、私は時間だけでなく、人数や予算についても同じような視点で考えています。今5人で回っているから5人必要、今30分かかっているから30分必要、とは限りません。詳しくは別のブログで書きましたので、あわせてご覧ください。

【関連記事】「パーキンソンの法則 ― 適正人数や費用を考える際に思い出してほしいこと」
https://delighting.co.jp/blog/parkinson-3/

改善するときには、「今こうなっているから」を出発点にするだけでなく、「本来、どうあるべきなのか」から考えてみることも重要です。


4.「部分最適」― 自部署にとっての改善だけを考える

ホテルには、フロント、予約、料飲、調理、清掃、施設管理など、さまざまな仕事があります。そこで起こりやすいのが「部分最適」です。

例えば、「フロントにとっては、この方法が一番効率的」だったとしても、その変更によって清掃スタッフの仕事が増えているかもしれません。予約担当者には便利でも、お客様には分かりにくくなっているかもしれません。調理場の効率を上げた結果、サービススタッフの動線が悪くなっているかもしれません。

一つの部署、一つの工程だけを見れば「改善」でも、ホテル全体で見ると「改悪」になっていることがあります。特にホテル・旅館の場合、さらに重要なのが「お客様にとってどうなのか」という視点です。

ホテル側の業務効率は上がった。でも、お客様にひと手間増えた。スタッフは説明しやすくなった。でも、お客様には分かりにくくなった。これでは本当の意味での改善とは言えません。

改善を考えるときには、「誰にとっての改善なのか?」を常に確認しながら進める必要があります。部署単位ではなくホテル全体で見る。そしてホテル側だけではなく、お客様側からも見る。この二つの視点が重要です。


5.「属人化」― 改善を「人」に頼ってしまう

ホテル・旅館の現場では、

「あの人がいるときはできている」
「支配人が言っている間はやっている」
「気づいたスタッフだけが直している」

といったことも起こります。

特定の人の能力や意識、頑張りによって高い水準が維持されていること自体は悪いことではありません。問題は、その人がいなければできなくなることです。

ホテル・旅館はシフト勤務です。担当者が休みの日には行われない。異動すると元に戻る。退職すると誰もやらなく(やれなく)なる。これでは、改善が組織に定着したとは言えません。

良い改善ができたのであれば、それを特定の人だけのものにせず、

「誰が担当してもできるか?」
「他のスタッフにも共有されているか?」
「必要であれば手順やルールに落とし込めているか?」

まで考える必要があります。「できる人をつくる」だけではなく、「誰でもできる状態をつくる」。改善を継続させるうえで、とても大切な視点だと思います。


【まとめ】5つの罠は、それぞれ別の問題に見えて実はつながっている

ここまで、

1.改善のイベント化
2.現状維持バイアス
3.パーキンソンの法則
4.部分最適
5.属人化

の5つを挙げました。それぞれ別の問題のようですが、実際の現場では複数が同時に起きています。

管理職は、「せっかく改善するなら、大きなことをやろう」と考える。一方、現場では(そして管理職自身も)、「今までこのやり方だったから変えたくない」となる。さらに、「この仕事には5人必要」「この作業には30分必要」という現在の状態が前提になり、各部署は「自分たちの仕事がやりやすい方法」を考える。そして、せっかく良い改善ができても、特定の人だけが実践している。その結果、本来取り組むべき小さな改善が放置されたり、せっかくの改善が組織に根づかなかったりします。

改善とは、日常の「なぜ?」を見つけ続けることです。改善というと、何か大きなことをしなければならないように感じるかもしれません。しかし、実際のホテル・旅館には、お金をほとんどかけなくてもできる改善がたくさんあります。

「なぜ、ここに置いているのだろう?」
「なぜ、この順番なのだろう?」
「なぜ、この作業をしているのだろう?」
「なぜ、2人必要なのだろう?」
「なぜ、30分かかるのだろう?」
「これは誰にとって便利なのだろう?」
「この人がいなくても続けられるだろうか?」

一つひとつは、とても小さな問いです。しかし、この「なぜ?」を日常的に持てる組織と、持てない組織では、数年後に大きな差が生まれます。

そして、改善は「やったら終わり」ではありません。小さく変える → 結果を見る → 必要ならまた変える。この繰り返しによって、改善は日常になっていきます。大きな改善を一度行うことより、小さな改善を続けることの方が難しい。だからこそ、改善を「特別な活動」にしないことが重要です。

昨日まで当たり前だったことを、今日もう一度疑ってみる。そして、小さくても良くなるのであれば変えてみる。その積み重ねが、スタッフの働きやすさ、お客様の満足度、そしてホテル・旅館の収益性を少しずつ高めていきます。改善とは、大きなことをすることではありません。「なぜ、こうしているのだろう?」を日常的に問い続けることです。

私は、改善とはそういうものだと考え、日々お取引先の現場で問いかけています。

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