23.04.14
“おもてなし”が経営を苦しめるとき・・・「サービスしすぎライン」、決めていますか?
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宿や店舗の経営改善・再生をお手伝いする中で、私たちがよく直面することがあります。それは「経営者さんの人の良さ」です。もちろん、それは大きな長所であり、誉め言葉です。「お客様に喜んでもらいたい」「せっかく来てくださったから、気持ちよく過ごしてもらいたい」・・・ そんな想いを本気で持っている、素敵な方ばかりです。
こうした経営者さんたちは、よく「これサービスで!」と、無料で飲み物や料理、お土産などを提供されています。お客様は大喜び。提供する側も、笑顔になれる。まさに“おもてなし”の心です。でも、そこが経営改善の大きなポイントになることが多々あります。
(*今回のコラムの中では、サービスという単語は「無料の提供物」という意味で用います)
誤解のないように言えば、無料サービスそのものを否定しているわけではありません。問題は、「誰にでも」「いつでも」「なんとなく」サービスをしてしまっているケースです。言うまでもなく、サービスにも原価がかかっています。あるお宿では、「これ、サービスです♪」の積み重ねが、結果として利益の大部分を食い尽くしていたこともありました。スタッフさんたちと過去のサービスを洗い出し、精査しながらみんなで驚いたのを覚えています。
そこで私たちは、経営改善の一環としてサービスに使っていい金額の上限=「サービスしすぎライン」「サービスに使える枠」 を設けることをアドバイスしています。サービス用にその金額を使い、仮にその分利益が減ったとしても経営に影響のない予算枠です。例えば、
「この宿は月〇万円の利益が出ているから、その中から全社で5万円までは“おもてなし枠”として使おう」
こんなふうに、「サービスしすぎライン」「サービスに使える枠」を決めます。金額の設定は、「売値ベース」が現場ではわかりやすいことが多いですが、コスト意識をとことん高めたい場合には、「原価ベース」で決める方法もあります。この「枠を意識してサービスを行う」、これは経営改善にとても大事な意識改革です。
「そんなの、なんだか味気ない」「せっかくの雰囲気が台無しになる」・・・ そんな声もよくいただきます。気持ちは本当によくわかります。私たちも、現場に立っていたからこそ、「今この瞬間にサービスしたい気持ち」、すごく共感できます。
でもだからこそ、考えてほしいんです。サービスにも原価があるということ。そして、サービスしすぎで経営が傾いてしまうことがあるという現実を。
「サービスしすぎライン」「サービスに使える枠」を意識して、無理のない範囲でお客様に喜んでいただく。その積み重ねが、「また来たい」と思ってもらえるお客様に対し、企業が存続する責任と持続可能なおもてなしにつながります。経営と現場のバランスをとるためにも、一度見直してみませんか?
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