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「臨機応変」が新人に通じない理由 ・・・ 暗黙知と許容範囲のギャップ

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■「臨機応変にやって」

「臨機応変にやって」サービス改善で現場に立ち会う際、先輩スタッフからよく耳にするこの言葉。ですが、新人スタッフさん(以下、新人さん)にとってこれはもっとも難しい指示の一つです。理由はシンプルで、「臨機応変にやる」ために必要な前提知識と判断軸が、まだ形成されていないからです。


暗黙知の壁 ・・・「 現場の普通」がわからない


 たとえば飲食業では、「料理は左から、ドリンクは右から」の提供が通例とされています。経験のある人にとっては常識でも、未経験の新人さんにとっては新しく覚えるべき「明示知」です。

 そのうえで、現場にはこうした状況が日常的にあります。

・テーブルが壁に密着している
・荷物やベビーカーでスペースが限られる
・左利きのお客様がいる
・団体利用でレイアウトが特殊

 こうしたケースで、「状況に応じて柔軟に対応して」と言われても、新人さんは「どこまでアレンジしてよいのか?」がわかりません。これはサービス現場における「暗黙知」すなわちマニュアルにない判断基準や、先輩たちの感覚的なノウハウが壁になっている状態です。


認知的負荷と「心理的可動域」の問題


 新人さんにとっては「基本通りにやる」だけでも脳内はフル稼働。そこにイレギュラー対応を求められると、認知的負荷が急増し、判断停止やミスにつながります。さらに、新人の多くは「怒られたくない」「迷惑をかけたくない」といった不安を抱えています。この状態では、許容範囲を試すこと=リスクと捉えてしまい、行動を制限してしまうのです。これを私は「心理的可動域の狭さ」と呼んでいます。


ベテランにも起きている「現場感覚のズレ」


 面白いことに、これは新人さんだけでなくベテランでも「他の現場」では同じことが起きます。私自身も、別の宿や飲食店の応援に入った際には、まず現場の空気を読み、どこまでが許されるのかを探る「観察フェーズ」を設けます。

 ただし、この“様子見”ができるのは、私には経験の中で培った判断軸があるからです。ですが新人さんには、それがありません。つまり、「臨機応変」は経験の上に成り立つスキルであって、それを新人に求めるのは構造的に無理があるのです。


指導側のスタンスとOJTの設計


 「自分で考える力をつけさせたい」という意図で“あえて教えない”という指導もあります。それ自体は育成手法として間違っていません。ただし、それを行うには以下のような条件整備が必要です。

・明確なロールモデルの存在
・安心して「失敗できる」環境づくり
・フィードバックとリフレクションの機会の設計

 これらがないまま「考えろ」と言われても、新人さんは「どうしていいかわからない」だけになります。


弊社が現場に入る理由


 最近では人材不足の影響で、ロールモデルとなる先輩がそもそも現場に不在というお店も増えています。だからこそ、弊社は「実際に現場に入り、伴走しながら改善する」ことにこだわっています。これを「共動実践型™」と呼んでいます。

 弊社のコンサル方法に限らず、判断軸や空気感、マニュアルに書けない暗黙知こそ、「見て学ぶ」「一緒に経験する」ことが必要であり、それを整えるのが組織や管理職の役目でもあります。


最後に ・・・ 「臨機応変」の前にすべきこと


 「臨機応変に動ける人材が欲しい」と願う前に、まずはその人材が育つための基礎・土台(知識・安心・経験)を整える必要があります。

マニュアルだけではなく、
「なぜこうするのか」
「どんな時に変えてもよいのか」
「どうすればお客様にとってベストになるのか」

 こうした判断の物差しを言語化して伝える力が、現場や管理職には求められているのではないでしょうか。


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