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「ジャムの法則」から学ぶメニュー設計のヒント:選択肢は多いほど良いのか?

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「プランやメニューって、やっぱり多い方がいいんでしょうか?」

 これは、宿泊施設や飲食店の方から当社によくいただく質問の一つです。確かに、たくさんあった方がお客様のニーズに応えられる気がしますよね。ですが、実は「選択肢が多すぎると逆に選ばれにくくなる」という心理現象があるのをご存じでしょうか?今回はその一つ、「ジャムの法則(決定回避の法則)」をご紹介します。


■ ジャムの法則とは?


 これは、コロンビア大学の社会心理学者シーナ・アイエンガー氏が行った有名な実験です。彼女はスーパーマーケットでジャムの試食販売を行い、「24種類のジャムを並べた場合」と「6種類に絞った場合」の購買行動を比較しました。結果は意外にも、24種類を並べた時よりも、6種類に絞った時の方が、実際に購入した人の割合が圧倒的に高かったのです。

 

■ なぜ選ばれにくくなるのか?


 選択肢が多すぎると、人は次のような心理状態になります。

・選ぶこと自体に疲れてしまう(決定疲れ)
・「もっと良いものがあるかもしれない」と思い、決断を先延ばしにしてしまう(後悔回避)
・「全てを把握できていない」と感じて、自信を持って選べない

つまり、たくさんの中から選べることが必ずしも「嬉しい」とは限らないのです。


■ 売上が下がるという意味ではない


 ここで誤解してほしくないのは、「6種類の方が売上合計が高かった」という話ではないという点です。この法則が示しているのは、「購入に至る割合」が高かったということです。ですので、業態や目的によっては、多くの選択肢が有効な場合もあります。


■ 「現状維持バイアス」も忘れずに

 

 合わせて知っておきたいのが、現状維持バイアス(ステータスクオーバイアス Status Quo Bias)です。これは、人が新しい選択をすることよりも、「すでに使ったことがあり、失敗するリスクの少ない選択肢を選びやすい」という心理傾向です。

 たとえば、新しい宿やお店を探すのも楽しいけれど、「結局いつものあのお店にしようか」となること、ありませんか?これはまさに、安心感を優先した現状維持バイアスが働いていると言えます。この心理は、リピーターの獲得やLTV(顧客生涯価値)を高めるうえでも重要な視点となります。


■ 当社のアドバイス事例

 

 弊社がプラン造成やメニュー構成のアドバイスを行う際、以下のような大まかな方針をお伝えしています。

・静かな宿・お店 → 選択肢は少なめに

静かに過ごしたいお客様は、そもそも“選ぶ楽しみ”よりも“決めてしまう安心感”を求める傾向があります。

・アクティブな宿・お店 → 選択肢は多めに

 アクティブなお客様は、選ぶ過程そのものを楽しみと感じる傾向があるため、豊富な選択肢がある方が満足度が高くなりやすいです。

 もちろん、これは一例であり、お客様の層や施設のブランドコンセプトによって調整が必要ですが、「選択肢は多ければ良い」という一律の考え方には注意が必要です。


■ 法則を「言語化」できることの価値

 

 ときどきコンサルティング先やセミナーで「そんなことは経験上わかっている」と言われることがあります。たしかに現場感覚として理解されている方も多いのですが、こうした心理傾向に正式な名前(フレームワークや法則)があることで、他のスタッフとの共有や、戦略立案時の整理が格段にしやすくなります。マーケティングやブランディングに取り組む際も、「なんとなく」ではなく、「なぜそれを選ぶのか・勧めるのか」を明確に言語化することで、説得力のある提案が可能になります。


■ まとめ


・選択肢が多すぎると「決められない」ことがある(ジャムの法則)
・少ない選択肢が「売れる」場面もある
・「安心」を求める現状維持バイアスも意識すべき
・顧客層やブランドに合わせた選択肢設計が重要

 日々の業務の中で「選ばせる工夫」を考える際に、ぜひ今回の内容を一つのヒントとしてご活用いただければと思います。


※シーナ・アイエンガー氏の著書「選択の科学」は、上記コラム内容の深掘りにお勧めです。

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