19.12.24
ホスピタリティと経営の狭間 ・・・ 数値で着地点を決める
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私たちが担当する事業再生や業務改善は、規模の大きな宿泊施設・複数店舗のレストランから個人経営、ペンション、民宿などの小規模なところまで様々です。この中で、割と小規模な宿泊施設・飲食店に少し気になる共通点があるので取り上げます。
ご家族や個人で宿泊施設・飲食店を経営されている皆さんは、ほぼ全員の方が「人と接するのが大好き」「お客様が大好き」です。お越しになるお客様に最大限喜んでいただきたい、120%満足してもらえたら、などホスピタリティの気持ちで溢れています。私たちもいろいろなご相談を受けながら、多くのお客様に愛されているんだろうなぁ、と感じます。このおもてなしの気持ちはお客様にもしっかり伝わっており、口コミも評価の高いものばかりです。その反面多くの方が経営的にうまくいかず、悩みに悩んで私たちにご相談いただいております。
この方たちに共通してみられる特徴、それは「サービスしすぎ」です。「知り合いがきたから」「リピーター様だから」「あの方のご紹介だから」「記念日にご利用いただいているから」・・・この理由は私たちも十分よくわかります。経営を考えなければ、私たちもどんどん大盤振る舞いしそうです。
ただ冷静に考えていただくと、そのサービスによって利益が減少していることに気づくはずです。原価・原材料費・人件費などを考慮して、宿泊費や料理単価は決められています。その中に、追加サービスする分の原価は含まれていません。オーナーやマネージャーの気持ち一つでOKし、提供されています。私たちが精査してみると、そのお客様の利益分がすべて飛んでいる、もしくはそれ以上の場合も多くあります。このような「ザル」感覚でサービス/経営を行っていると、利益はなくなり赤字だけが残ります。お客様には喜んでいただける、リピーター様も増えて売り上げは上がっている、口コミも上々、でも赤字でつぶれそう、そんな状態です。
勘違いしないでいただきたいのは、このホスピタリティマインド/サービス精神自体は一切否定していません。むしろ大賛成の肯定派です。だからこそ、この部分を経営に活かしながら利益も残せる仕組みを作りましょう。それは、毎月「サービスに自由に使えるお金」を設定することです。
売り上げや館の規模、スタッフの数などで金額はバラバラですが、毎月の売り上げから一定の「サービスに自由に使えるお金」を予算化します。これは毎月の利益の中から「多少減っても経営に問題はない」金額を算出します。それを仮に「あったか資金」と呼びます。
例えば、あったか資金が毎月10万円あるとします。スタッフが「あのお客様は今日が結婚記念日のようだ。花束を渡したい」と考えた場合、上司に相談してこのあったか資金から費用捻出しプレゼントします。また「リピーター様で今回は5回目記念なので、メインのお肉をグレードアップしよう」と計画する場合も、このあったか資金から差額分を捻出します。
これらをすべて記録しておき、毎月の予算内に収まるようにします。それ以上は一切出さない(そもそもそのためのお金が会社にはない)と決めます。この記録に載せる数字は仕入原価がベターですが、わかりにくければ通常の売値でも構いません。自社が考えやすい・取り組みやすい方にしましょう。
上記のように、重要なことは毎月「サービスに自由に使えるお金」を設定してしまうのです。財布にお金が入っているイメージで、入ってなければもう使えない、という当たり前のことをシステム化します。
このシステムの利点は、一件ごとの利益を予定通り確保しながら、毎月のトータル利益から自社経営に影響が出ない資金範囲内でサービスもできる、ということです。一か月のご予約状況を考慮して前もってサービス計画を立て、ザルのサービス/思い付きのサービスを減らすこともできます。また副産物として、スタッフに「すべての行為にはお金がかかっている(原価がある)」という認識を植え付けることができます。
この施策は、私たちが担当する多くのホテル・旅館・飲食店で、最初に行うことの一つです。個人経営の皆さんも一度この点から自社を見直してみましょう。
■ 売り上げと利益に関してはこちらのブログもご参照ください。
トップラインとボトムライン ・・・ ビジネスパーソンが意識すべきこと
https://delighting.co.jp/blog/topline/
ClaudiaWollesenによるPixabayからの画像
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