18.11.05
お客様が描く「幸せ」を、自分は本当にわかっているか
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ちょっと宗教的なタイトルに見えますが、そんな内容ではありません。
ホテルマンになった時「よし、これからたくさんのお客様に喜んで頂いたり、想い出を作ってもらおう!」と意気込んでいました。
しかし、新人が陥りがちなことですが、頑張りすぎてお客様に煙たがれることも多々ありました。「お客様にお声をかけず、放っておくのもサービスの一つ」と先輩に指導を受けたこともあります。
ホテルに関する本を何冊も読み、「華やかなエピソード」をいくつも目にして、そんな話に感銘を受け「どうにかお客様を喜ばせよう!」と勘違いしていたんですね。
そんな時、ふと一つの詩を目にしました。NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」で院内学級を取り上げた回に出てきた小学5年生、宮﨑涼くんの書いた詩です。
* 画像が小さく見にくいですが掲示します。
涼くんは難病を患い何度も手術を受け続けましたが、本当に残念ながら12歳ちょっとで亡くなりました。その涼くんが書いた詩です。
この詩を読んだ時、ボロボロボロと「着飾った自分本位のかっこつけホテリエ」が崩れたのがわかりました。自分がホテリエとして良いと思ってやっていたのは、単に独りよがりのパフォーマンスだとわかったのです。
もし涼くんが目の前にいたら、私がホテリエとしてやるべきことは豪華な料理や綺麗な部屋を準備することではないはずです。
涼くんが「幸せ」と感じることを一緒に「幸せ」と感じられる目線がホテリエには必要なはずです。決して上からではない、お客様の目線で、そしてその目線よりちょっとだけ期待を上回る目線が。
この時から私はお客様に対して謙虚になりました。「何かしてあげよう」ではなく「私にできることはないか」に変わりました。
あるホテルでオペレーションマネージャーとして現場に入っていた時、高齢の姉妹がご来館されました。
お座敷でのご夕食を担当したのですが、妹様が長年病気を患っておられ、今回もまた大きな手術を終えやっと退院できたそうです。
ただ「またいつ入院するかわからないので、少しの時間でも姉妹でゆっくり過ごしたいと思って」私たちのホテルを選んで頂けました。
一品ずつお料理を運びながらお二人の会話の邪魔にならないよう気を付け、話しかけられたら少しお話をし、少し硬めの料理の時にはお声掛け、最後にちょっとだけ退院お祝いのデザートをプレゼントしました。
お二人の時間をとても楽しんでおられ、私はデザートサプライズ以外の特別なことはあえて何もしませんでした。二人の間に流れる時間が何より大切だと感じていたからです。
数日後、私宛に手書きの絵とお礼状が届きました。文面を読んだときに「あ、ちゃんと目標にしてきたことが出来始めたんだな」と事務所で涙が出たのを覚えています。
このハガキは額にいれて、自宅の書斎に飾ってあります。この他のお客様から頂いたお礼状も、全部自分の勲章として部屋に飾っています。
よく聞くフレーズですが、幸せの形は人それぞれです。本当のホテリエは、その「人それぞれ」の幸せを汲み取ることが出来るのだと思います。(私レベルの話ではありません)
おもてなし、ホスピタリティ という言葉が、自分本位になっていないか、本当にお客様目線の少し上になっているか、これからも気を付けて行きたいと思います。
追記:涼くんの詩は自分が生きているだけでどれだけ恵まれているか、ということにも気づかせてくれます。時々見直せるように、この詩も手帳やデスクに貼っています。
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